なぜダイエットが難しいのか?その秘密は「決断疲れ」にあった【3つの決断力向上ポイント】
“どんなに禁欲的で、意思が強そうな人でも「脳の疲労」には逆らえない。逆にそれをコントロールする術を身につければ、賢明な選択が出来るはずだ。”
from The New York Times Magagine. text by John Tierney.
これは、クーリエジャポン2012年3月号の記事です。
ダイエットが難しいのは、決断力が原因という事を色々な角度から検証しています。
面白かったのでまとめてみました。
時間帯による仮釈放の確率の変化
スタンフォード大学のジョナサン・レバブとベン・グリオン大学のシャイ・ダンジガーは、イスラエルの刑務所においてくだされる仮釈放の決定について調査した。1年間で下された1,100件以上の決定を分析し、仮釈放されやすいパターンを導き出した。
- 受刑者がイスラエル系かアラブ系かは関係ない。
- 犯した罪の内容は関係ない。
- 午前中の早い時間に審問を受けると、午後の遅い時間に受けるそれより約7倍、仮釈放が認められている。
これは、判事が朝から晩まで決断を繰り返す事で、「決断疲れ」に落ち入る為と解説している。決断疲れをすると、決断に伴うあらゆる変化に抵抗を感じ、潜在的にリスクの高い行動(例えば、再犯するかもしれない受刑者を釈放すること)を嫌う。決断疲れした判事は楽な道をとり、受刑者は引き続き堀の中で暮らす事になるというわけだそう。
この決断疲れは、どのような人にも起こりえる事で、
- 普段は常識的な人が、同僚や家族に怒りをぶつけてしまう。
- 不要な洋服をついつい買ってしまう。
- コンビニでお菓子を買ってしまう。
- 嫌だと思っていても、勧められると断れない。
こうした事は、全て決断疲れと関係しているそう。理性を保ち高潔であろうと、どんなに努力しても、次々と決断を下していけば、生物学的な代償は免れない。疲れているという自覚は無いが、精神的エネルギーが低下していく。
「魔が差した」とは「決断疲れ」のこと?
欲求を抑えると消耗する
「決断疲れ」 は「自我消耗」に関する最新の発見だそうです。自我消耗という概念は、社会心理学者のロイ・F・バウメイスターが提唱したもの。
「意思の力は筋肉と同じ様に、使えば疲労するし、過度の使用を避ければ保存出来る」という事を裏付ける、以下の二つの実験をバウメイスターは行った。
- 大学生に対して、近くのデートで買ってきたペンやキャンドル、Tシャツなどを見せて欲しいものを考えさせ た。その後、「決断して持ち帰ったグループ」と「考えただけで持ちかる決断をしなかったグループ」に分けてから、氷水に出来るだけ長く手を入れて我慢するという自己統制力をはかるテスト。
- ショッピングモールにて、買い物を沢山してきた人と、そうでない人に対して、計算問題を出した。
貧しい人は意思が弱い?
決断疲れしている人は、売り込みのタイミングを心得ている売り手にとって格好の標的である。ドイツ車ディーラーで行った実験では「オプションの選択タイミングを操作して、購入額に1台あたり1,500ユーロ(約15万円)の差を出す事が出来た」
- 最初は慎重に オプションを選ぶが、決断疲れをしてくると、初期設定のオプションを選ぶ様になる。
- 早いうちに困難な選択(56種類の内装から、色の濃淡など細かく選ぶ)をした人ほど、早く決断疲れをし、初期設定の通りに選びがちになる。
といった事も分かった。
そして、買い物は、貧しい人を特に疲労させる。彼らは常に相殺(トレードオフ)をせまられているからだ。石けんを買おうかどうか、アメリカ人は悩まない。しかし、インドの地方の住人にとっては、エネルギーを消耗する問題である。
このような決断疲れが、貧困から抜け出せない大きな要因である。と考えられている。厳しい経済状況のゆえに多くの相殺を迫られて、教育や仕事など、彼らを中流階級に導くであろう活動に注ぐ意思の力が、少ししか残されていないのだ。
また、ある研究では、貧しい人は裕福な人より、出来合いのものやスナックを食べる傾向がはるかに高い事が指摘されている。買ってすぐ食べられる軽食より、家で料理を作った方が節約出来て、栄養価も高いのでは、と思うかもしれない。しかし、スーパーでの買い物が、貧しい人にとって裕福な人より決断疲れが大きいとしたら。レジにたどりついた頃には、目の前の棚にあるスナックの誘惑に抵抗する意思の力はあまり残っていないだろう。
僕も決して裕福ではないので、決断疲れ派ですが、たしかにコンビニのレジ横にある「ブラックサンダー」はついつい買ってしまう。。
ダイエットのジレンマ
脳は体の他の部分と同じ様に、グルコースよいう糖類からエネルギーを得る。バウメイスターの研究室は、砂糖入りのレモネードと人工甘味料入りのレモネードを使って、意思の力の変化を調べた。すると、砂糖入り(つまりグルコース入り)レモネードは自我消耗を少なくとも和らげ、完全に回復させることもある事が分かった。
ちなみに、人工甘味料についてはヤバイという記事も出ています。
脳科学者で、社会神経科学の先駆者でもあるトッド・ヘザートンは、ダイエット中の女性45人を対象に次の実験を行った。
- 食べ物の写真を見せて、脳の反応を調べる。
- コメディー映画をみせて、笑いを我慢させる。(精神エネルギーを使う)
- もう一度食べ物の写真を見せる。
- 食べないためには、意思の力が必要である。
- 意思の力を得る為には、食べなければ(グルコース摂取)ならない。
- 半分は、「お菓子を食べたい」「仕事をさぼりたい」など日常的な欲求であった。
- 最も我慢した欲求は、「食欲」「睡眠欲」。その次が「性欲」だった。
- 欲求を我慢する方法のトップは、「気を紛らわす事を見つける」「別の事をする」だった。
- 眠気や性欲、カネを使う欲求は抑えやすいが、「テレビをみたい」「ネットサーフィンをしたい」「リラックスしたい」という誘惑には弱い。
現代の私たちは、選択肢があまりにも多くて圧倒されている。肉体的にはスケジュール通りにオフィスに座っていても、心は瞬間的に逃避出来るからだ。
例えば、ある人は1日に30以上のサイトを見て「ブログを見よう、ニュースを読もう、YouTubeをみよう、ツイッター、フェースブック、Amazonで何か買おう、いやネットをやめて仕事をしよう」といった決断を下しながら消耗している。自己統制力を失うと、たった10分のオンラインショッピングで、1年分の買い物をしてしまうことだってありえる。
これらの衝動や決断の累積的な影響は直感では分かり辛い。生理的なレベルで疲れを実感しないからだ。 しかし、大小さまざまな決断が、蓄積していく。
- 昼ごはん何食べよう
- 休みはどこに遊びに行こう
- どのくらいお金を使おう
- 重要な決定は必ず午前中に行え!
- 意思の力が弱まったと感じたら、甘いものを食べろ!
- 会議の予定は立て続けに入れるな!
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